池田知栄子です。

書籍立ち読みパート2です。

当時のことを、今でも鮮明に覚えています。

「偶然ではなく、すべてが必然」そんなことを、心から実感した出会いでした。

それは、日常的に、皆さんの周りでも起き続けているのです。

心にトラウマをたくさん抱えた当時の私には気が付けませんでしたけれど・・・・。

この日から、私の人生は大きく変わり始めました。

 

『幸せを見つめられるようになってごらん』

≪幸せへの第一歩≫

池田知栄子は、鏡に映る自分と流行の雑誌を交互に見ながら悩んでいた。

「う~ん……、やっぱり髪は長い方が男ウケいいよね~。エクステンションつけようかなぁ。 つけるとしたら、どこの美容室がいいんだろ?」

突然、カバンに手を突っ込んで、ぐるぐると中をかき回すような動作を五回繰り返すと、 「あー、もう!」と面倒くさそうな声を出して、知栄子はカバンをひっくり返した。

カーペットに中身がぶちまけられる。

レシートやら化粧道具やらが散らばった床から、知栄子は携帯電話を見つけた。

「あった♪あった♪」 タバコに火をつけて、携帯サイトを開く。

「〈越谷市〉〈美容室〉〈エクステンション〉……で、いいか」

独り言にしては大きめのボリュームでしゃべりながら、自宅から近い美容室を検索し始める。

「『髪処 桜千道』? なに、漢字ってださくない? 次、次……」   ……三〇分。……一時間。

どんどん時間は過ぎていくが、なかなかピンとくるお店が見つからない。

「えぇと、〈越谷〉〈おすすめ〉〈美容室〉……『髪処 桜千道』」

「んん……〈埼玉県〉〈エクステンション〉……また髪処なんとかだよ。はい、次」

「じゃぁ、やっぱ〈越谷〉〈エクステンション〉〈得意〉……またぁ?」

何度も検索をしなおすが、いくら検索ワードを変えても『髪処 桜千道』がトップにヒットする。

「なんだかなぁ~、もういっか。ほかによさそうなとこないし、しょうがない。とりあえず電話してみるか」

店の名前から感じる古臭いイメージに気が進まないまま、知栄子は電話をかけた。

「はい、桜千道です」

電話先の男性の声に知栄子は緊張した。

「あ、あの、エクステンションをつけたいんですが、もしかして今日って大丈夫ですか?」

「本日はエクステンションのお色に限りがございまして、かなり暗めのものしかございません。 お客様の地髪のお色は、今……」

「あー、いいです! いいです! 今日つけたいのでお願いします !!  色もそれで !! 」

電話をかけて勢いがついた知栄子は、カラーのカウンセリングをしようとした男性の言葉を 最後まで聞かずに押し切った。

「あぁ、はい。ありがとうございます。では、一八時でいかがでしょうか?」

「大丈夫です!よろしくお願いしまぁーす!失礼しまぁーす!」

電話を切った知栄子は、三二歳の女性が着るとは思えない、

露出の激しい派手な服を引っ張 り出し、三時間後の美容室に向けてメイクを始めた。

肩のはだけたTシャツにホットパンツ、ヒールが一五センチ以上ある厚底サンダル。

肌が隠 れている部分の方が少ない格好だ。

デカ目効果を狙って、パンダみたいに目の回りをグルグルとアイラインで囲っている。

「うん。今日もイケてる」 知栄子は、北越谷駅のトイレの鏡でつけまつ毛がずれていないかをチェックすると、お店へ 向かった。東口を出て二~三分。

「『髪処 桜千道』……ここか」 知栄子は小さなピンク色の看板を確認して扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

一人の男性が温かく迎えてくれた。

「あ、すいません。今日、一八時に予約をしていた池田ですけど」

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

案内された席に座って、知栄子は店内を見渡した。

「あの……、お一人でやられているんですか?」

「ええ、そうです。当店は、完全予約制の個室型なので、常にマンツーマンなんですよ」

「へぇ~、そうなんですか。すごいですね~」

「初めまして。店長の岡本マサヨシと申します。今日は数ある美容室の中から当店をお選びい ただきまして、ありがとうございます」

「あ、どうも……よろしくお願いします」

マサヨシはニッコリと微笑んでカウンセリングを始めた。

「池田さん、やっぱり髪の色が明るいですね。でもきれいに染まっていますから、この色に合っ たエクステンションをおつけした方がいいと思うのですが?」

「昨日、ほかのお店でカラーだけ済ませてきたんですよ」

「そうでしたか。ただ先ほどお電話でもお伝えしたのですが、今日ご用意できるエクステンションがこの色しかないんですね」 とマサヨシは、知栄子にエクステンションを見せた。

「ほんとだぁ。だいぶ暗くなっちゃいますね」

「そうなんですよ。もし今日どうしてもご希望でしたら、エクステンションの色に池田さんの 髪のお色を合わせないと、バランスがおかしくなってしまいます。いかがなさいますか?」

「あ、いいです。今日つけたいので、そのエクステの色に染めちゃってください」

「今の池田さんの髪のお色、とてもお似合いだと思うんですよ。もし、二日待っていただける なら、池田さんの髪色にぴったり合ったエクステンションが届きます。 それに、もし、やっぱり色を明るくしたいとなると、カラー代金もエクステンション代金も 二倍かかっちゃいますし?」

「うん、大丈夫です。暗くなっちゃっても、かまいません」

「本当に大丈夫ですか? 染めちゃいますよ」

「はい大丈夫です。お願いします」

「そうですか、かしこまりました。では、カラーの準備をしてきますのでお待ちください」

マサヨシは店内奥へと姿を消した。

 店内奥から、シャカシャカとカラー剤を混ぜる音が聞こえる。

 知栄子がそわそわして待っていると、奥から信じられない言葉が聞こえてきた。

「池田さん、サービス業をされているんですね。あんまりお酒、飲み過ぎない方が体のために はいいですよ。……なるほど、四人家族で……妹さんがいらっしゃるんですね」

突然、職業や家族構成を言い当てられて驚いた知栄子は、マサヨシのいる方に身を乗り出し た。

シャカシャカシャカシャカ……。

マサヨシは、平然とカラー剤を混ぜている。

  (……なんだ? この人?)

「あのー、なんで分かったんですか? 私、何も言ってないですよね……。もしかして占い師? 何も話してないのに、色々と分かっちゃうとか?」

マサヨシは知栄子のうしろに立ち、髪にカラー剤を塗りながら、丁寧に答えた。

「はい、何でも分かりますが、僕のは占いではなく、リーディングと言います。リーディング とは、宇宙の情報ソースにアクセスして、お客様の知りたい情報や必要な情報をお伝えすると いうものです。普段はリーディングメニューのご希望がなければ見ないのですが、 池田さんの情報は『見えて』しまいました。まれに、今、情報をお知らせすることが必要なお客様に限り、 自動でリーディングしてしまう場合があるんですよ。池田さんも、必要だったんですね」

 

「…………?」

 

知栄子がキョトンとして聞いていると、マサヨシは続けた。

「色々と、悩みを抱えてらっしゃるようですね」

たしかに、知栄子は仕事・家族・恋愛・体調……とたくさんの悩みを抱えていた。

  (なんだか、この人すごそう……)

思わず、テンションがあがった。

「そうなんですよー。私、こう見えても結構悩みがいっぱいあって。最近は占い師とかめっちゃ 探していたところだったから、すっごいビックリ!すっごい偶然 !! 」

「なるほど。今日はそれもあって、ここにいらしたんでしょうね。でもね、これは偶然なんか ではないですよ」

「偶然じゃないんですか?」

「つまり、引き寄せ合ったんです。悩みを相談したい、将来の不安を解消したいと考える池田 さんと、そういった人を救いたいと考える僕の思いが現実となって、今、ここにいるんです。 偶然ではなく、必然なんですよ」

ピピピッピピピッ。

タイマーから、カラー放置時間の終了を知らせる合図が鳴った。