『幸せを見つめられるようになってごらん』
≪初めてのヒーリング体験≫
翌日、知栄子は時間通りに桜千道を訪れた。
「お待ちしておりました」
マサヨシはそう言うと、さっそく昨日の続きを話し始めた。
「まず池田さんは、今の苦しい状況を自ら好んで作ったわけではない。そう思っていませんか?」
「はい。その通りです。自分が好んで不幸を選ぶ人がいるわけないでしょう?」
「池田さん。もしあなたの人生で起こったすべてのことが、ご自身で選んで決めた結果だとしたらどうしますか?
あなた自身が選んで、今のお母さんとお父さんの間に生まれてきて、こんな人生は嫌だと思ってきたことすら、実は自分が選んだことだとすると……」
マサヨシは知栄子にそう尋ねた。
「もちろん、そんなはずはないと思いますが、もしそうだとしたら……自分で決めたのだから納得するしかありませんよねぇ~」
「ありがとうございます。それを聞きたかっただけです。ヒーリングのセッションがすべて終わった時、ご自身の中にその答えがあります」
「私の中に?」
「そうです。それともう一つ、池田さんは今幸せですか?」
知栄子は首を横に振った。
「いいえ、幸せではないからこそ、今ヒーリングを受けようか迷っているんじゃないですか~」
「なるほど、今幸せになりたいと言うことは、幸せは今あなたの心の中に見つけることができ
ないと感じているのですね?」
「はい?言っている意味が理解できませんが?」
「ごめんなさいね。なぜこんなことを聞いているかと言いますと、私たち人間は元から幸せなのです」
怪訝な顔の知栄子を前に、マサヨシはなおも話を続ける。
「ところが、あるものが人間の心を見えなくさせて、幸せを感じさせないようにしています。その原因となるのが『心のすす』なのです。実は人間というのは、限りなく守られています。満たされています。そこに気がつくことを、私たちは幸せと呼んでいるのです。その幸せの邪魔をしている『心のすす』を取り除くヒーリングが心浄術です。心浄術を知っていただくためには、『バーストラウマ』と『インナーチャイルド』について、知っていただく必要があります」
マサヨシはバーストラウマとインナーチャイルドについて説明した図を手にした。
「まずは、バーストラウマの説明をしていきましょう。
バーストラウマとは、お母さんのお腹から産まれる時にできるトラウマです。産道を通って産まれてこようとする赤ちゃんは、その時に〝痛い〟〝怖い〟という感覚を経験するんですね」
「へぇ~。産まれる時って、赤ちゃんも痛みを感じるんですね」
知栄子はびっくりしたようにそう言った。
「はい、そうです。今まで羊水に包まれてすごく心地よかったのに、産道は細くて暗いので、赤ちゃんにとっては恐怖なんですよ」
「……なるほど」
「そして、誕生してやっとお母さんに抱っこしてもらえると思いきや、お母さんとは全然別の部屋に、新生児室などに連れて行かれてしまいます」
「なんだか、かわいそう」
「そうですね。いきなりお母さんと離れ離れにされてしまうのですからね。赤ちゃんは、誕生と同時に〝悲しい〟〝寂しい〟経験をするわけです。こういった経験は、心の傷となります。
……ここまでのお話は分かりますか?」
「はい」
「ありがとうございます。この、心の傷のことをバーストラウマと呼ぶのです。
これが形成される要因は、このようになります」
■バーストラウマの要因
分娩期の経験
潜在意識に持つ否定的信念と成長してからのパターン
・安産………………安産で生まれすぐに母親と接触し離されなかった子は、楽観的、外交的、人を疑わない性格で、
困難にも立ち向かい勝つというパターンを持つ。
潜在的に母親からの絶対的な愛と信頼を持っているので、ゆるぎないあふれる自信、幸せになるのが当たり前と思えるので幸福な人生を送るが、狭い産道を通り抜けることと、へその緒を断ち切られる恐怖は残る。
・難産………………出産が長く苦しいものだったので「人生は苦しいものだ」という信念を持つ。苦労を買ってでもして、いばらの道を選ぶ。挫折しやすく変化を恐れ嫌う。攻撃的・暴力的傾向。
・逆子………………前へ進むことの焦り。先が見えない恐れ・不安を持ちやすい。へその緒のからみ…呼吸器疾患やぜんそく、パニックになりやすい。喉が弱く、自分の気持ちを表現することの恐れを持つ。
・無痛分娩…………薬物依存、無力感、無気力。計画無痛分娩の場合は、胎児の生まれたい日を無視してさらに無力感が強く、筋肉が弱く、体に力が入りにくい場合がある。
・帝王切開…………計画出産と緊急切開によって異なる。自分で産道を通ってきていないので「自分で最後までやりとげることが難しい」というパターンを持ち、目的達成まで多くの助けを必要とする。手術で生まれているので光に対する異常な反応を示す。刃物への執着。
・早産・未熟児……外出に対する恐怖。不安や恐れが強い。「まだ早い」という気持ちを持つ。
・陣痛促進剤………赤ちゃんにとっては全身苦しい痛み。「助けて」という叫び。
・鉗子・吸引分娩…成長過程において原因不明の頭痛となる。特に鉗子や吸引ではさまれた部分。
・お尻を叩かれ仮死状態……「誰かにお尻を叩かれないと前に進めない」という傾向を持つ。
・羊水を飲み呼吸困難………喉のつまり、表現することに恐れを持つ。息ができないことの恐怖。
出産が原因で母親が病気 ……自分のせいで母親に苦しい思いをさせたとの思いから、迷惑をかけないよう大人しい
手のかからない子になったり、母親に対する心配(母に何かあったらどうしよう、出かけてちゃんと帰ってくるか不安)を強く持つ。
出産後の経験
潜在意識に持つ否定的信念と成長してからのパターン
・母子分離………………たった一日母親から離れただけでも寂しさ、孤独、見捨てられた恐怖、自己否定、「私は愛されない」という信念を持ってしまう。長期に渡れば渡るほどその傷は深く、無力感・無気力も伴い、何かをやろうとしても「どうせ」という気持ちが出てくる。 ぬくもりを求め、とくに性的なものに現れる。 依存が強くさまざまなものに中毒する傾向にある。
皮膚疾患、ぜんそく、呼吸器障害、アレルギー、摂食障害、嫉妬心、競争心、自己否定、無価値観を持ちやすい。
保育器黄疸のための光線治療…「母子分離」同様、泣いても来てくれないあきらめ、寂しさ、自主性の欠如、母性
の渇望。社会に出て行けないなどのケースが見られる。
・自然な発達の制限…… 歩行器・ベビーバンズなどで本来の自然な発達・発育を妨げると、ハイハイが遅かったりしなかったり、大人になってから骨格のゆがみとなり、心身ともに体調不良となり現れる。
「……つまり、どのような出産方法でも、バーストラウマは形成されます。もちろん、池田さん、あなたにも。それは理解できましたか?」
「はい……。分かりました」
表を使ってのマサヨシの説明は続いた。
「次に、インナーチャイルドについて説明します」
「インナーチャイルド……?」
「そうです、インナーチャイルドは、乳幼児期から成人までの期間において、傷ついた出来事や満たされなかった欲求が主な原因となっている心の傷のことです」
「傷ついた出来事って、たとえばどんな……?」
「そうですね、色々ありますが、たとえば、家庭内暴力を受けたこと、いじめを受けたこと、求める形で親からの愛情を得られなかったこと、兄弟姉妹の存在により、親の愛情が減ったと感じたこと、親などの状況により、家庭が安心していられる場所ではなかったこと、などです」
「へー」
知栄子は驚いた。
「では、インナーチャイルドを形成する要因についてご覧いただきましょう」
■インナーチャイルドの要因
・ 家庭内暴力を受けたこと
・ いじめを受けたこと
・ 求める形で親からの愛情を得られなかったこと
・ 兄弟姉妹の存在により、親の愛情が減ったと感じたこと
・ 親などの状況により、家庭が安心していられる場所ではなかったこと
・ 自分のペースより、早く成長を求められたこと
・納得いかない形での親との別離
・恒常的に否定されたこと
・ 「ダメ」という言葉を頻繁に使われたこと
・ 求める形で親からの愛情を得られなかったこと
・ 学力=存在価値と刷り込まれたこと
・ 存在価値を否定されるような教育を受けたこと
「いかがですか?インナーチャイルドの要因に当てはまるものがありましたか?」「はい……。いっぱいあります」
「ということは、池田さんの心の中には、インナーチャイルドによるゴミがたくさん溜まって
いる状態と考えてもいいわけです」