池田知栄子です。
書籍立ち読みパート3です。
私と岡本先生は、自分達の過去を書くことで、何かが届けられるんじゃないかと思いました。
そして、本にしました。 きっと、誰にでもある日常にたくさんの意味があるのだと思います。
「幸せ」とか「夢」とか、そんなの抽象的で、それを想い願うことは現実的でないと思って生きていました。
そんなことは綺麗ごとだと、笑っていました。 そこには、自分の弱さと向き合うことへの怖さがありました。
だから悩んで、上手くいかない私の人生を、仕事や病気や家族のせいにして生きていました。
自分の人生は自分のものです。
一人ひとりが、自分の幸せを見つけられたら、こんな素晴らしいことはないと思いす。
自分の両足で歩く人生のヒントをこの本で見つけてもらえたら、こんな嬉しいことはないです。
『幸せを見つめられるようになってごらん』
≪幸せへの第一歩≫
「さっ、シャンプー台へどうぞ」 カラーを流し、シャンプーをしながらマサヨシは言った。
「先ほども言いましたが、僕は占い師ではないです。ヒーラーです」
「ヒーラー?」
「はい。そうです。僕は美容師なのですが、ヒーラーでもあるのです。毎月多くのクライアントが、 この店に心 浄術ヒーリングを受けに来られています。そして、みなさん悩みを解決されています」
「心浄術ヒーリング……ですか?」
「はい。そうです。その話はまたゆっくりいたしましょう。髪の方ですが、洗い流せていない 場所はないでしょうか?」
シャンプーを終えると再び鏡の席に移動し、今度はエクステンションを取りつけ始めた。
「……さぁ、エクステンションの取りつけが終了しましたよ。いかがですか?」
「わぁ~。このエクステ、サラサラですね。それに装着早くないですか? まだ二〇分くらいしか経ってないのに、すご~い」
「では、これで終了となりますが、髪型は気に入っていただけましたか?」
「はい。色もなんかいい感じですね。ありがとうございました」
会計を済まし、知栄子は桜千道をあとにした。
家に帰ると、また鏡に映る自分と流行の雑誌を交互に見始めた。
(う~ん……、なぁんか気分よくなって帰って来ちゃったけど、やっぱり、色暗すぎるかなぁ……?)
知栄子はタバコに火をつけると、携帯から電話をかけた。
「あー、もしもし、リナ? お疲れぇー。さっき美容室に行って来たんだけどさぁー、 なぁんかカラー失敗したかなーって思ってぇ。今から写メ送るから見てくんない?」
「うん。いいよ、いいよ。待ってる~。知栄子さぁー、今日出勤だっけぇー?」
「うん。出勤だよ~。あっ思い出した。今日の美容師さぁ~、私なんも言ってないのに、 なんか職業バレちゃったみたいで……家族まで当てられちゃって、すごくな~い?」
「え、何それ~、わけわからん。それより写メ送ってよ」
出勤準備をしながら写メを撮って送ると、さっそくリナからメールが返ってきた。
《いいんじゃない? 似合ってると思うよ》
《えー、マジで? 暗くない?》
《いーじゃん、たまには》
《そっかなー。とりあえず店で見てくれる?》
《了解♪》
店に着いた知栄子は、店のタイムカードを押すとメイク室に向かった。
「おはよう~」
「おはよう~知栄子。いいじゃん、さっきの写メより全然いいよ。似合ってるよ」
リナはそう言った。
「え~そうかな~? なんか色暗くて重くない?」
「うん、うん。全然大丈夫だって。たまには新鮮でいいじゃん」
「ん……。でも、なんか可愛くない気がする……」
知栄子は褒められているのに、どうしても納得がいかなかった。
そしてお店から美容室に電話をかけた。
「もしもし。すみません。遅くまでやってるんですね。今日エクステンションをつけていただ いた、池田知栄子です」
「あ、どうも本日はありがとうございました。いかがなさいましたか?」
マサヨシの声だ。
「え~、実は友だちとかに見せたんですけど、みんな髪色が前の方がいいって言うんですよ。 私は気に入ってるんですけどね」
「はい。そうでしたか」
「やっぱ~、すぐつけ直したいんですけど、明日とか無理ですかねぇ?」
「明後日でしたら、ご用意できます。ただ、もったいなくないですか? またカラーリング代金とつけ直すエクステンション代金がかかってしまいますが、よろしいんでしょうか?」
「はい、大丈夫です。明後日の何時でしたら空いていますか?」
「そうですね。今の空き状態ですと……、一八時で予約をお取りできますがよろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」 「では、お待ちしております。失礼いたします」
電話を切った知栄子は、一日、憂鬱な気分で仕事を終え帰宅した。
待ちに待った、美容室の予約の日。知栄子は二〇分も早くに桜千道の扉を開けた。
「ごめんなさい。ちょっと早く着いちゃいまして~、大丈夫ですか?」
「あぁ、はい。すぐ用意いたします」
「この前、店長さんがせっかく『二日待った方がいい』って言ってくれたのに、強引にやって もらっちゃったから……。なんか、逆にすみません」
「いいえ、大丈夫ですよ。なんとなく、こうなる気がしていましたので。では、お席へどうぞ」
「……なんとなく、こうなる気がする?」
知栄子は首をかしげた。
マサヨシはニコニコしながら話を続けた。
「僕にはリーディング能力があるって、先日お話したのを覚えていますか?池田さんの髪色をカウンセリングしている時も、〝本当は明るめのお色が好きな方〟って、 情報が僕の中にはあったんですよ。
あの時、ちゃんと納得していただけるようにもう少しお話 しておけばよかったですね。……そのかわりといってはなんですが、通常でしたら、エクステンション装着後のカット料金がかかりますが、 今回は無料にしておきますね」
「え~いいんですか?」
「はい。もちろんです。それでは、エクステンションのお色も、池田さんの地髪の色も気に入っていただけるように、今回は僕にお任せいただけませんか? 必ずお似合いになりますようにお作りします」
「はい。お願いしま~す♪」
知栄子は嬉しかった。
どんな美容室で髪をやってもらっても、「本当にこれでいいのだろうか」 と考えてしまって、こんな気持ちになることはなかった。
それが今回は珍しくワクワクしている。
初めて美容室で何か打ち解けられたような気がして、張りつめていた気持ちが一気にリラックスした心地よい気分に変わった。
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